Tuesday, May 19, 2020

新型コロナウィルス、投薬の組み合わせがハマったかどうかは投薬開始後3日(投薬日含めると4日)以内に確認できるのではないかという話

日本感染症学会様で、新型コロナウィルス感染症の症例が症例報告という形で公開されていることはご存じだろうか?
今回、新型コロナウィルス感染症をもっと詳しく知ろうと考え、この症例報告のうち、5月19日までのもの(223症例うちハマったかどうかを判断できた症例134)を全て読み込み、とりあえずざっくりデータ化し傾向を考察してみたところ、タイトルにある傾向が確認できたため、それについて述べたいと思う。

症例公開という場を設けて下さいました日本感染症学会様、並びに多忙にも関わらず症例を公開して下さいました医師の方々、症例の公開に同意下さいました患者様ならびにご家族の方々に深く御礼申し上げます。また、不幸にも亡くなられた方々のご冥福を、心よりお祈りいたします。

さて、私は医療関係者ではないため、医療として間違っていることを記載している可能性があることを、まずはお断りさせて頂きたい。要は、これから私が述べることを、まずは疑いの目を持って見ていただきたいということである。

次に、私がこれから述べることの基礎となるデータ(症例報告)の特性を、ざっくりではあるが列記しておこうと思う。

  1. この症例報告は任意報告であるため、報告例に偏りがある可能性があり、治療で利用する薬剤を統計的に選択する用途には不向きである可能性がある
  2. これまで経験したことがない症例の共有のための報告が比較的多い(普通がどうかはわからないが)ように思われる(パターン網羅性が高い可能性)
  3. 30歳以上、90歳未満の方の症例が多い(10歳未満:1、10歳代:0、20歳代:5、30歳代:18、40歳代:15、50歳代:21、60歳代:33、70歳代:25、80歳代:23、90歳以上:0)
  4. 薬剤は、現在のところファビピラビル、シクレソニド、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル・リトナビルを投与した症例が多い(ファビピラビル:52、シクレソニド:46、ヒドロキシクロロキン:30、ロピナビル・リトナビル:42)
  5. 日本人の症例が多い(日本人以外:11)
  6. 重症度(最重症時)は、抗ウィルス薬を投与開始するレベルから人工呼吸器管理を行うレベルまでの症例が多い(ECMO管理は除く)(無症候:0、軽症:1、中等症:42、重症:56、重篤:32、他界:10)
  7. 男性が多いが女性も少なくはない(男性:91、女性:47、不明:3)

つまり、以下に述べることは、特に3.から7.までの条件に限定される可能性がある。(例えば4.に述べた4つの薬剤以外の薬剤にはあてはまらない可能性がある)

上記の症例を、データとして扱うために、年齢、性別、既往歴などの情報を抜き出してまとめ、治療で用いられた薬を発症日もしくはPCR陽性判明日を基準とした日数をベースに時系列で履歴化した。
さらに投薬による症状の改善を見るために、改善傾向が見られる直前に投与された薬を書き出していったところ、投薬によるものと思われる症状の改善は、投薬開始から3日(開始日も含めると4日)以内に極めて集中しているという傾向があった。これは、投薬開始直後から改善が見られるケースもあれば、投薬開始からしばらくは悪くなり続け、その後に改善するというケースもあり、改善の仕方は一様ではないのだが、改善が見られる場合は3日以内に確認できるという点は共通していたのである。これは、新型コロナウィルス感染症に対する治療として、データの特性の中で述べた、日本人で、30歳以上、90歳未満のどの年齢でも、ファビピラビル、シクレソニド、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル・リトナビルのどの薬剤でも、抗ウィルス薬を投与開始するレベルから人工呼吸器管理を行うレベルまでのどの重症度でも、性別、基礎疾患に関わらず共通しているように思われる。また、症例の中には少ないながらも日本人以外の方の症例も含まれており、同じ基準での考察が可能であったことから、海外の症例を分析することで同様の傾向が確認できるかもしれない。
ただし「投薬によるものと思われる症状の改善」は、症例に記載された文言から私が判断したものであるので、判断の妥当性はこれを読まれた方々によってチェックされるべきである。

ある投薬の組み合わせを開始してから、症状の改善が確認されるまでの日数の分布は以下のようになっている。ほとんどの症例が3日以内に集中していることがお分かりいただけるだろうか。著効したから報告したという症例が多いということを考慮したとしても、それでもなお集中しているように思われる。

日数 0日 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日 9日 10日以上 他界
4薬剤使用ありの症例 19 21 17 10 5 1 2 2 0 1 4 8
4薬剤使用なしの症例 6 10 3 3 2 0 1 0 2 0 0 2


ここからは、「投薬によるものと思われる症状の改善は、投薬から3日(開始日も含めると4日)以内に極めて集中している」ということが正しいことが前提となるが、これがわかると何が言えるかというと、「投薬がハマったかどうかを確認するために4日(開始日も含めると5日)以上様子を見る必要はないのではないか」ということである。
3日以内に投薬を変更してはならないということではないので、その点は誤解しないで頂きたい。

また、「投薬がハマったか」という表現を使っているのは、その直前に投薬を開始した薬剤のみが著効しているとは限らないが症状の改善がみられる、ということを表現したかったためである。

例えば、ある症例では、
Aという方が、1という薬で改善が見られなかったが、2という薬を追加したところ改善した
別の症例では、
Bという方が、2という薬で改善が見られなかったが、1という薬を追加したところ改善した
というようなパターン(もっと複雑なものもある)が、いくつも見受けられる。

だがこれをもって、Aという方の状態には2という薬が著効し、Bという方の状態には1という薬が著効したと言えるだろうか?
恐らくは、それを判断する前に、1と2が何かを補完しあっているのではないかということも、考察する必要があるのではないだろうか?
また、1という薬をやめて2という薬を始めて改善が確認された場合でも、同じような考察が必要になるのではないかと考えている。
このため、投薬の組み合わせを変更し、症状の改善が見られることを「投薬がハマった」と表現することにしたのである。

とにかく、ここで述べたいことは、私が述べていることがもし正しいと確認できた場合には、ある投薬の組み合わせを開始して、症状の改善が確認できないまま3日(開始日も含めると4日)が経過した場合、4日(開始日も含めると5日)目からは異なる投薬の組み合わせ(薬の追加を含む)で治療を行うことを、検討してみて頂けないだろうかということである。

この情報が、新型コロナウィルス感染症治療の一助となれば幸いである。

なお、私がこの検討の際に使用した症例要約などは、日本感染症学会様にお送りしているので、その資料が必要となる場合にはそちらから提供を受けて頂きたい。(資料「①症例毎の投薬のサマリ20200430迄.pdf」もしくは「②投薬が著効した可能性を認める症例20200430迄.pdf」の中の各症例の「発症から改善傾向確認までの間隔」という項目に、私が改善傾向と判断したポイントを記載している)
また、その資料を利用する場合には、各症例報告の著作権が各症例報告の著作者に帰属しているということに留意して頂きたい。

Friday, May 8, 2020

プロトンポンプ阻害剤(PPI)は、新型コロナウィルスの時を止めるか

 私は医療関係者ではないため、情報に誤りや不正確である部分もあるかと思われる。もしそういった部分に気づかれた方は、コメントにてご一報いただきたい。

 さて、紆余曲折あり、ここに行きついた。
 原理として考えているのは、こちらの記事に「小胞の中が次第に酸性化し、ウィルスのスパイクを介して小胞とウィルスの膜が融合」とある部分について、新型コロナウィルスでも、エンドソームの酸性化を抑制することによりウイルスRNAの細胞質への侵入を遅延させる可能性があるのではないかということである。

 ただし、プロトンポンプ阻害剤は「胃の壁細胞のプロトンポンプに作用し、胃酸の分泌を抑制する薬である」(Wikipedia)(通常はその為に使用する)ため、「胃酸による殺菌作用が抑制される結果、腸内細菌叢の変化を引き起こし小腸の炎症が増強される事が報告されている」(Wikipedia)などの懸念があることに十分注意して頂きたい。
 そのような薬が何故アメリカでは市販されているのか理解できていないのだが、医師による管理が必ず必要となる薬であるという認識である。

 また、遅延効果というのは、つまり感染症を治すためにはほかの薬を利用するか、免疫によりウィルスが排除されるのを待つ必要があるということである。
 その上で、遅延効果があったかということの評価は、遅延効果がなくとも新型コロナウィルス感染症は重症化しないケースがほとんどであることから、そういったケースを除外できる評価基準もしくは評価法でなければ評価ができない。(悪い結果であっても、他の要因の可能性を除外しきれない可能性がある)
 つまり、現時点で闇雲に試すのは百害あって一利なしとなる可能性があり、慎重な判断が求められるということを、まずはご理解いただきたい。

①上記前提を踏まえた上で、まず上で述べた原理についての可能性について述べたいと思う。
 この原理は、プロトンポンプ阻害剤が、その名の通りプロトンポンプを阻害するために利用するものであるが、エンドソームの酸性化もまたプロトンポンプによって行われている(Wikipedia)ため、こちらも阻害するという前提が必須である。
 だが、話はそう単純ではなく、胃酸を産生するプロトンポンプはH+,K+-ATPaseというものであり、エンドソームの酸性化を行うプロトンポンプはV-ATPaseというもので、全く同じものというわけではない。
 そのため、薬の作用がH+,K+-ATPaseに特異的(薬の本来の用途としてもその方が望ましいはずである)であれば、上記の原理は前提が覆り成立しないことになる。

 そのため、この点について情報を蓄積していこうと思う。
 まず、確認できたのは、がんの治療の際にプロトンポンプ阻害剤を使ってV-ATPaseを阻害することで、抗がん剤などの効果を高めることができないかという研究の情報である。
 Influence of the proton pump inhibitor lansoprazole on distribution and activity of doxorubicin in solid tumors
 がんのアルカリ療法

 次に、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪予防のためにプロトンポンプ阻害薬を利用する研究の情報である。こちらは、エビデンスの強度については別途考察が必要と思われるが、臨床試験が行われており、興味深い結果となっている。
 A new strategy with proton pump inhibitors for the prevention of acute exacerbations in COPD

②次に新型コロナウィルス感染症で評価を行うにあたり、どのような評価が可能かを検討したいと思う。

 まず、以下のようにある集団において、個々人の様々な条件を組み合わせながら、傾向を探るというのは、一つの方法ではあると思う。つまりある集団の中で、プロトンポンプ阻害剤を利用しているグループに、重症者が少ない傾向などがみられるかを確認する方法である。こういった情報を他で見つけられた方がおられたら、コメントにてご一報いただきたい。
 Interest of Proton Pump Inhibitors in Reducing the Occurrence of COVID-19: A Case-Control Study

 上記のようなことは、私には行うチャンスが今のところないので、私は私で公開されているコロナウィルス感染症の症例から、プロトンポンプ阻害剤の処方を受けている方の情報を考察し、何か特徴的な何かがないかを確認し、以下に追加していこうと考えている。もし、プロトンポンプ阻害剤の処方を受けている方の症例を見つけた方がおられたら、コメントにてご一報いただきたい。
【2020/05/24追記】
 現在、日本感染症学会様で公開されている新型コロナウィルス感染症の症例報告を全て読み込んだが、プロトンポンプ阻害剤を常用薬としている方がそうでない方と比べて明確な違いは認められなかった。
 一方、こちらの症例報告では、ヒドロキシクロロキンでの治療に加えて、重症者にはプロトンポンプ阻害剤を投与しており、それが関係しているかどうかは現時点では何とも言えないが、細菌性肺炎の合併で亡くなった方がおられた他は、非常に良い結果となっている。しかしながら、30症例の治療の各詳細が分からないため、この結果を十分に検証することができない。ヒドロキシクロロキンもまたエンドソームの酸性化を抑制する(pHを上昇させる)働きがあり、プロトンポンプ阻害剤との相乗効果を確認できる好例だと思われるだけに、残念である。

なお、エンドソームの酸性化を抑制するということでは、液胞型プロトンポンプ阻害剤というものがあるようなので、そちらの情報も収集していくことを考えている。
【2020/05/24追記】
 確認してみたのだが、液胞型プロトンポンプ阻害剤でこの用途で利用可能に思えるものはなかった。(細胞毒性などの理由)