Friday, May 8, 2020

プロトンポンプ阻害剤(PPI)は、新型コロナウィルスの時を止めるか

 私は医療関係者ではないため、情報に誤りや不正確である部分もあるかと思われる。もしそういった部分に気づかれた方は、コメントにてご一報いただきたい。

 さて、紆余曲折あり、ここに行きついた。
 原理として考えているのは、こちらの記事に「小胞の中が次第に酸性化し、ウィルスのスパイクを介して小胞とウィルスの膜が融合」とある部分について、新型コロナウィルスでも、エンドソームの酸性化を抑制することによりウイルスRNAの細胞質への侵入を遅延させる可能性があるのではないかということである。

 ただし、プロトンポンプ阻害剤は「胃の壁細胞のプロトンポンプに作用し、胃酸の分泌を抑制する薬である」(Wikipedia)(通常はその為に使用する)ため、「胃酸による殺菌作用が抑制される結果、腸内細菌叢の変化を引き起こし小腸の炎症が増強される事が報告されている」(Wikipedia)などの懸念があることに十分注意して頂きたい。
 そのような薬が何故アメリカでは市販されているのか理解できていないのだが、医師による管理が必ず必要となる薬であるという認識である。

 また、遅延効果というのは、つまり感染症を治すためにはほかの薬を利用するか、免疫によりウィルスが排除されるのを待つ必要があるということである。
 その上で、遅延効果があったかということの評価は、遅延効果がなくとも新型コロナウィルス感染症は重症化しないケースがほとんどであることから、そういったケースを除外できる評価基準もしくは評価法でなければ評価ができない。(悪い結果であっても、他の要因の可能性を除外しきれない可能性がある)
 つまり、現時点で闇雲に試すのは百害あって一利なしとなる可能性があり、慎重な判断が求められるということを、まずはご理解いただきたい。

①上記前提を踏まえた上で、まず上で述べた原理についての可能性について述べたいと思う。
 この原理は、プロトンポンプ阻害剤が、その名の通りプロトンポンプを阻害するために利用するものであるが、エンドソームの酸性化もまたプロトンポンプによって行われている(Wikipedia)ため、こちらも阻害するという前提が必須である。
 だが、話はそう単純ではなく、胃酸を産生するプロトンポンプはH+,K+-ATPaseというものであり、エンドソームの酸性化を行うプロトンポンプはV-ATPaseというもので、全く同じものというわけではない。
 そのため、薬の作用がH+,K+-ATPaseに特異的(薬の本来の用途としてもその方が望ましいはずである)であれば、上記の原理は前提が覆り成立しないことになる。

 そのため、この点について情報を蓄積していこうと思う。
 まず、確認できたのは、がんの治療の際にプロトンポンプ阻害剤を使ってV-ATPaseを阻害することで、抗がん剤などの効果を高めることができないかという研究の情報である。
 Influence of the proton pump inhibitor lansoprazole on distribution and activity of doxorubicin in solid tumors
 がんのアルカリ療法

 次に、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の急性増悪予防のためにプロトンポンプ阻害薬を利用する研究の情報である。こちらは、エビデンスの強度については別途考察が必要と思われるが、臨床試験が行われており、興味深い結果となっている。
 A new strategy with proton pump inhibitors for the prevention of acute exacerbations in COPD

②次に新型コロナウィルス感染症で評価を行うにあたり、どのような評価が可能かを検討したいと思う。

 まず、以下のようにある集団において、個々人の様々な条件を組み合わせながら、傾向を探るというのは、一つの方法ではあると思う。つまりある集団の中で、プロトンポンプ阻害剤を利用しているグループに、重症者が少ない傾向などがみられるかを確認する方法である。こういった情報を他で見つけられた方がおられたら、コメントにてご一報いただきたい。
 Interest of Proton Pump Inhibitors in Reducing the Occurrence of COVID-19: A Case-Control Study

 上記のようなことは、私には行うチャンスが今のところないので、私は私で公開されているコロナウィルス感染症の症例から、プロトンポンプ阻害剤の処方を受けている方の情報を考察し、何か特徴的な何かがないかを確認し、以下に追加していこうと考えている。もし、プロトンポンプ阻害剤の処方を受けている方の症例を見つけた方がおられたら、コメントにてご一報いただきたい。
【2020/05/24追記】
 現在、日本感染症学会様で公開されている新型コロナウィルス感染症の症例報告を全て読み込んだが、プロトンポンプ阻害剤を常用薬としている方がそうでない方と比べて明確な違いは認められなかった。
 一方、こちらの症例報告では、ヒドロキシクロロキンでの治療に加えて、重症者にはプロトンポンプ阻害剤を投与しており、それが関係しているかどうかは現時点では何とも言えないが、細菌性肺炎の合併で亡くなった方がおられた他は、非常に良い結果となっている。しかしながら、30症例の治療の各詳細が分からないため、この結果を十分に検証することができない。ヒドロキシクロロキンもまたエンドソームの酸性化を抑制する(pHを上昇させる)働きがあり、プロトンポンプ阻害剤との相乗効果を確認できる好例だと思われるだけに、残念である。

なお、エンドソームの酸性化を抑制するということでは、液胞型プロトンポンプ阻害剤というものがあるようなので、そちらの情報も収集していくことを考えている。
【2020/05/24追記】
 確認してみたのだが、液胞型プロトンポンプ阻害剤でこの用途で利用可能に思えるものはなかった。(細胞毒性などの理由)

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